忘れえぬ演舞
エイサーシーズン到来!
旧盆に県内各地の青年会や同好会で演じられる、琉球伝統舞踊「エイサー」。
大太鼓やパーランクー(小太鼓)を振り回し、
激しく悠然と繰り広げられる演舞は
今はやりの「草食系」を微塵も感じさせない、雄雄しさで胸が高鳴ります!
沖縄の言葉では、胸が高鳴る事を「ちむどんどん」と言うのだけれど
エイサーの太鼓の音に合わせ煽られて、心臓(ちむ)が
「ドン!ドン!」いう感じは、まさに体感できる言語です。
(ビックリした時の「アキサミヨー!」は、いまいちピンとこないんだけどね)
今年はもう糸満の喜屋武エイサーと、
具志頭のぐしちゃんエイサーを観て来ましたよ!
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だけど、私には忘れられない演舞があります。
私の住むアパートから程近い、南城市・玉城にあるテーマパーク
『おきわなワールド 文化王国・玉泉洞(以下、玉泉洞)』。
そこで年中行われている観光客相手のスーパーエイサーが、
私の生まれてはじめて観たエイサーであり
忘れられない、特別なエイサーなのです。
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今でこそ毎日が楽しくて、晴れてるだけでご機嫌な、
こんなお気楽極楽人間の私ですが
その昔は、ふざけていても、楽しんでいても
「この楽しさはいつまでも続くものではない」
なんて冷めた考えがつねに付きまとっていて、
訳もなく寂しい気持ちになったりしてた、生意気な子どもでした。
今にして思えば、珍しくもない反抗期や無情観。
若者特有の荒廃的な感傷ですが、その真っ只中にいる頃は
そうとも気づかず、けっこう深刻に悩んでたんですよ。
自分の胸には、ぽっかり大きな穴が開いていて、どんなに楽しいことも、
嬉しいことも、すぐにその穴から、ストンと抜け落ちてしまう。
だから忘れないように、楽しいことは書き留めなくちゃ。
私の執拗なレポート癖は、その頃の名残かもしれません。
その時その時に感じた、幸せな気持ちを忘れないように。
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そんな私が、初めて運命を感じたのが、沖縄との出会いでした。
旅行で訪れたその日、空港に降立ち、湿度の高いムワッとした熱気に包まれた
その瞬間から、私の中で何かが変わりました。
私と世間を隔てていた、薄い氷の膜がパリンと割れたような
ずっとザーザー言い続けていたラジオの周波数が、突然ピタリと合ったような
殻をやぶって、新しい本当の自分が生まれてきたような
そんな爽快で、鮮烈な体験でした・・・・・・!!
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それからの私は、神奈川に帰ってからもずっと
「沖縄の神様が呼んでる」
と、沖縄に住むことばかりを夢見て過ごす日々。
とはいえ、仲良し我が家。
親はもちろん反対するし、私自身も本音では愛する家族と、
海を隔てた遠い島に離れて住むなんて、できるのだろうかと
初めはだましだまし、お金をためては観光旅行、
お金をためては援農ボランティアと
短期・長期の滞在を繰り返すのが関の山でした。
そして、お金をためて挑んだ『糸満自動車学校』での合宿免許。
一ヶ月間限定のプチ移住中、ふらっと訪れた玉泉洞で、
その人「やっさん」のエイサーを観て・・・・・・
本当の本当に、私の心は決まったのでした。
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「沖縄の神様が具現化して、目の前に現れたの!」
その日は興奮して、合宿所の寮生みんなに言いました。
馬鹿げたことを、と思うかもしれないけれど、
まさにそんな感じだったのです。
だって、踊っている時のあの人ときたら!!!
やっさんが舞台に現れた時、雷に打たれたみたいに感じて、
それからはもう、釘付け。
他の人とは明らかに違う。
太鼓を叩く姿は神々しく猛々しくて、バチの角度や所作は繊細で美しい。
並外れた美意識と、それに伴う実力と体力、練習量が、
素人目にもビリビリ感じられて・・・・・・
とにかく、もう!もうっ!!
大感激してしまったのでした!!
だから、と言ってはなんだけど、玉泉洞から車で数分の
具志頭村(合併前当時)に、のこのこ移住してきた私。
「ファン第1号」を公言してはばからず、
嬉し楽しいエイサー通いは続きました。
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けれど、そんな楽しい日々が、ある日突然の終結。
「今日、エイサー隊を辞めてきました」
「えっ!?」
やっさんがわざわざウチを訪ねて来るから、何事かと思いきや・・・・・・えーっ!?
この頃やっさんは、三宅裕司さんがはじめた
『沖縄マルチパフォーマー オーディション』に応募していて、
その現場風景がテレビにも取り上げられるようになっていました。
それを良く思わない人が今の職場の上の方にいて、
だんだん居辛い雰囲気になってきてると聞いてはいたけれど・・・・・・
「わざわざ、教えに来てくれたの?」
「………ファン第1号だから」
握手して、見送った後、少し泣きました。
やっさんのこれからを応援したいけど、
もう二度とやっさんのエイサーが観れないなんて・・・・・・
楽しいことは、やっぱり長くは続かない。
大事なものは、いつか消えてなくなっちゃう。
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だけど
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あれ?
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不思議なことに、私を長年苦しめていた、
あのぽっかり開いた、冷めた嫌な穴が
なぜか
なにかで満たされたように、跡形もなくふさがっていたのでした。